800人が本を借りられなかった日——名古屋市天白図書館、そして「一区一館」の話
1977年11月19日、天白図書館が開館した日、本を借りられずに帰った人が800人いたという。住民運動から生まれたこの図書館の開館をもって、名古屋市の「一区一館」計画は一つの区切りを迎えた。東区から始まった旅の終わりに。

※画像はAIによるイメージです。実際とは異なります。
1977年(昭和52年)11月19日、天白賃貸住宅の1階に、ひとつの図書館が開館した。
開館を待ち望んだ住民が押し寄せ、その日のうちに館内は満員になった。結局、本を借りられずに帰った人が800人いたという記録が残っている。
それほどまでに、この図書館は地域から待ち望まれていた。
「天白によい図書館をつくる会」、3年の道のり
図書館開館前の天白区は、図書館に通うのにバスで1時間もかけて瑞穂図書館や鶴舞中央図書館まで足を運ばなければならない、不便な地域だった。区内では、主婦などの個人が自宅を開放したり、団地の集会場を利用したりする私立の小図書館「子ども文庫」が各地で営まれていたという。
そんな子ども文庫の運営者を中心に、1974年(昭和49年)12月、「天白によい図書館をつくる会」の設立準備会が発足。翌年2月に正式発足し、以降は毎月のように勉強会を重ねた。1976年4月には市教育長・鶴舞中央図書館長宛に要望書を提出し、同日、図書館用地が購入される。住民の要望を吸い上げるため、工事現場に「希望の小箱」という目安箱まで設置された。
この目安箱に寄せられた子どもたちの声から、開館当初の蔵書にマンガを加えることが決まったという。天白図書館は今も自館を「『マンガのある図書館』として全国的に知られている」と紹介している。名古屋市図書館では初めてとなる、集合住宅との併設という形も、この住民参加の精神を象徴する選択だった。
テーマソングのある図書館
2017年(平成29年)11月、開館40周年を記念して、天白図書館にはオリジナルのテーマソングができた。その名も「てんぱくぱくぱく天白図書館」。聞いた人が元気になれるようにと作られたという、ちょっとユーモラスな一曲だ。
館内はワンフロアに豊富な図書が並び、気軽に読書を楽しめる作り。おはなし会・あかちゃんからのおはなし会・昔話の会など、子ども向けプログラムも充実しており、休日には多くの家族連れで賑わう。蔵書数は約9万3千冊。地下鉄鶴舞線「植田」駅から徒歩約8〜9分というアクセスも良好だ。
「一区一館」、その終着点
ここで少し、これまで巡ってきた図書館の話をしたい。
このシリーズは、1965年に徳川園内に開館した東図書館から始まった。名古屋市が掲げた「一区一館」計画——市内すべての区に図書館を、という構想の、まさに最初の一館だった。そこから瑞穂、中川、緑、守山、北、南、中村、名東、西と、各区の図書館を一つひとつ訪ねてきた。
そして1977年、天白図書館の開館をもって、中区・昭和区(昭和区は鶴舞中央図書館が兼務)を除く全区に分館がある状況が達成された。杉戸清市政(1961〜1973年)のもとで打ち出された一区一館構想は、ここで一つの区切りを迎えたことになる。
東区から始まり、12年をかけて天白区にたどり着いた、名古屋市の図書館網。その後も区役所支所管内の小型分館整備が続けられ、2010年の徳重図書館開館をもって、全管内に分館を持つに至った。近年では、名古屋市文化小劇場と合わせて整備されることが多いのも、このシリーズで何度も目にしてきた通りだ。瑞穂、中川、北、西、南——多くの図書館が文化小劇場と肩を並べて建っていたのは、決して偶然ではなく、市の都市計画の積み重ねだったのだ。
800人が本を借りられずに帰った、あの開館の日。住民が声をあげ、目安箱に思いを投じ、3年がかりで実現させた図書館。その積み重ねの先に、名古屋市内のどの区にも、歩いて行ける図書館がある今がある。
オアシスの森を歩いて
図書館の訪問とあわせて、相生山緑地まで足を延ばしてみたい。東京ドーム約26倍という広大な雑木林で、竹林の小径や梅林の小径など、複数のハイキングコースが整備されている。初夏にはヒメボタルが観察できる、日本最大級の生息地としても知られる。
住宅街の中に守られた、名古屋の原風景。本を読んで、森を歩く。シリーズの最後にふさわしい、静かな一日が天白区にはある。
基本情報
| 項目 | 内容 | |------|------| | 住所 | 愛知県名古屋市天白区横町701番地 | | 開館時間 | 平日・祝日 9:30〜19:00 / 日曜 9:30〜17:00 | | 休館日 | 毎週月曜(祝日の場合は翌平日)・毎月第3金曜・年末年始・特別整理期間 | | アクセス | 地下鉄鶴舞線「植田」駅より徒歩約8〜9分 | | 蔵書数 | 約93,000冊(一般和書約62,000冊・児童書約31,000冊) | | Wi-Fi | あり(NAGOYA Free Wi-Fi・要認証) | | 電源 | なし | | 駐車場 | あり | | 学習室 | あり | | 公式サイト | 名古屋市天白図書館 |
こんな人におすすめ
- 相生山緑地でのハイキングと合わせて訪れたい人
- 住民運動から生まれた図書館の歴史に興味がある人
- マンガも揃う、子連れで気軽に立ち寄れる図書館を探している人
- 名古屋市内の図書館を一区ずつ訪ね歩いてきた、その締めくくりに
周辺スポット
相生山緑地(オアシスの森)
東京ドーム約26倍にあたる約124haの広大な雑木林。竹林の小径・梅林の小径などのハイキングコースが整備され、初夏にはヒメボタルの観察スポットとしても知られる。住宅街の中に守られた、名古屋の原風景。
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